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犠牲の精神

アガサ・クリスティの「娘は娘」を読んだ。

結婚を巡ってお互いの人生を狂わせてしまう母娘の話。
ミステリ作品ではなく、殺人は起こらないし、もちろんホラーでもなく、読みやすい小説なのに、おそろしーいお話でもあるのだ。

「誰かのために犠牲を払ったと思っている人は、無意識のうちに相手に高い代償を払わせようとしてしまう」
というテーマなのだが、怖いのは「無意識に」であること。
わかっていれば、思い直してやめることもできる。
でも、自分が何をしているかに気づかないでいたら。
日常の中にいっぱいありそうで怖い怖い。

もうひとつ読んでいて重たいのが、この小説で起こる状況の解決が現実にはとても難しいであろうこと。
主人公のアンは早くに夫を亡くし、古いメイドと二人で育ててきた娘が19歳になったとき、友人を介して知り合った男と結婚を決意するが、彼と娘がどうしてもうまく行かず、間に挟まれたアンは疲弊してしまう。
男は「娘が家を出ればいい」と言い、娘は「私を追い出すなんて、お母様、そんなことおっしゃらないわね?」と泣きつくのだ。
娘と恋人とどちらを取るのかと迫られた母親はどうすれば良いのか。
どちらも失ってしまうことだってありそうだ。両方ともかけがえのない存在であっても。


クリスティにはこの手の小説(当初別名義で発表されたミステリでない作品)がいくつかあるが、どれもミステリ作家らしい洞察に満ちていて、ミス・マープルもポアロもトミー&タペンスもここから生まれたのねと納得させられる。
もしかして殺人事件抜きでも十分に面白い作品がたくさん書けたんじゃないですかね。

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